ディアスポラ小説、黄ソギョン『パリデギーー脱北少女の物語』(青柳優子訳、岩波書店)

黄ソギョン『パリデギーー脱北少女の物語』(青柳優子訳、岩波書店、2009年)

画像


 前回紹介した金起林を訳した青柳優子氏による翻訳である本書は、やはり植民地問題に深く根ざす現代作家・黄ソギョン氏の小説である。
 著者自身、満州の新京生まれで、日本の敗戦後に母方の故郷の平壌に移住。さらに南北分断の直前47年にソウルに移住。作家活動をしているなかで、1989年に「非合法」に朝鮮民主主義人民共和国を訪問したことにより、それ以後93年まで、ドイツとアメリカで亡命生活。93年に帰国し逮捕、98年まで5年間投獄されていた(金大中政権によって釈放)。
 著者はまさに身をもって、国家とは何か、国境とは何かを問うてきた。

 この小説作品の主人公の少女やその親近者たちもまた、苦しい思いで国境を越えた人たちばかりである。
 主人公の一家は、北朝鮮の飢餓と身内の失態を契機に、離散。母や姉らと離別し、祖母や父らといわゆる「脱北」、つまり河を渡り越えて中国へ。その中国で父は離散した家族を捜しに祖国に戻り行方知らず、祖母も亡くなり孤児となった少女パリは、中国から密航によってイギリスへと移住する。
 密航は、身分証明なしで密航費の借金を背負わせられており、不安定きわまりない。いっしょに渡った同志でも、途中で死亡する人、売春宿に売り飛ばされる人なども。主人公は、幸運にして、中国やパキスタン、ナイジェリア、南アフリカなどから、合法/非合法で移民してきた、似たような境遇の人たちに囲まれ、なんとか生活していくことができる。

 北朝鮮の飢餓から、アメリカ〈9・11〉とアフガニスタン攻撃、さらにはグアンタナモ基地の収容所にまで話は及び、まさしく現代的な移動をテーマとした小説だ。
 それとともに、著者独特の(他の小説にも見られる)、死者との対話などの幻想世界の混入が、いっそう現状の悲惨さと複雑さを際立たせる。
 「ディアスポラ小説」の傑作と言えるだろう。

 次々と重要な本を翻訳する訳者にも賛辞を送りたい。

にほんブログ村 本ブログ 学術・専門書へ


パリデギ―脱北少女の物語
岩波書店
黄 〓暎

ユーザレビュー:
スケールの大きい感動 ...
amazon.co.jpで買う
Amazonアソシエイト by ウェブリブログ商品ポータルで情報を見る