執筆から90年、ローゼンツヴァイクの大著『救済の星』がとうとう完訳刊行!

フランツ・ローゼンツヴァイク、『救済の星』、
村岡晋一・細見和之・小須田健=訳、みすず書房、2009年


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 ドイツ・ユダヤ人の思想家フランツ・ローゼンツヴァイクの主著であり、原書で500頁、翻訳で700頁に達する大著だ。1919年に原稿が完成したので(刊行は21年)、ちょうど今年が90年目になる。
 本書の裏表紙にもあるように、この前後の時期(つまりいわゆる大戦間期)には、シュペングラー『西欧の没落』、ルカーチ『歴史と階級意識』、ハイデガー『存在と時間』などなど、20世紀の思想の原点となるような重要書が多く刊行されているが、本書もまたそうした一群の書物に並べられるべき一書だ。

 しかし、西欧思想とユダヤ思想の「あいだ」にある本書は、なかなか理解者を得られず、さらに言えば日本語への翻訳者を得られず、長らく待望されていた翻訳刊行となった(もちろんまだまだ翻訳紹介が進んでいないものは山のようにあるけれども)。

 ローゼンツヴァイクは、ヘーゲルのキリスト教中心史観的な歴史哲学の批判を意識しつつ、ユダヤ教の終末論的な救済(贖い)の思想を基本概念に、新しい思考を体系づけようとした。ある種のメシアニズムではあるが、しかしユダヤ教の研究書ではない。あくまで、普遍性をもった思考の形式を模索した書物だ。
 西欧的ロゴス中心主義(モノローグ思考)に対して、訳者の村岡氏の強調するところでは、ローゼンツヴァイクは、「対話の思考」を打ち立てようとした、という(本書の真髄はそれにはとどまらないと思うけれども)。

 同じくユダヤ系ドイツ人(ドイツ・ユダヤ人)のヘルマン・コーヘンに影響を受けつつ、マルティン・ブーバーとともに仕事をし、そしてエマニュエル・レヴィナスやジャック・デリダなどのフランス・ユダヤ人の哲学者にも大きな影響を与えた、重要な歴史的書物。
 私自身も、『ユダヤとイスラエルのあいだ』(青土社)のあとがきでも触れたように、そこでは扱いきれなかったけれども今後の課題となっていた問題でもある。本書を手助けに、勉強を仕切り直さなければと反省。

 なお、かなり高額な大著。その価値はあるけれども、なかなか手が出ないかもしれない。
 とりあえずは、訳者の一人である村岡氏が、本書刊行に先立って、『対話の哲学――ドイツ・ユダヤ思想の隠れた系譜』(講談社選書メチエ、2008年)を書かれている。ちょうどいい副読本になっている。こちらから入るという手もあるかもしれない。

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救済の星
みすず書房
フランツ・ローゼンツヴァイク

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対話の哲学 ドイツ・ユダヤ思想の隠れた系譜 (講談社選書メチエ)
講談社
村岡 晋一

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