100年前に地元からこんな集団密航移民がいたんだ――新田次郎『密航船水安丸』

新田次郎『密航船水安丸』、講談社文庫、1982年(初版1979年)

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 1906年、カナダも含めた北米の移民規制が厳しくなってきた時期に、あえて集団密航という手段に打って出た人たちが、宮城県にいたんですね。新田次郎がそれを題材に小説にしたのが、『密航船水安丸』。
 宮城県北部米川村の及川甚三郎が、移民した先のカナダ・バンクーバーで、排斥運動を避けながら、島一つを開発するために、地元の村から移民希望者を募り、確信犯的に、実力行使で密航移民をした。すでに北米地域では、アジア系移民が厳しく制限されており(07年で禁止となったために、08年からブラジル移民が開始されたのは周知のとおり)、島を丸ごと開発する人員の移民を正規ルートで通すことはできなくなっていた。
 そこで、密航を画策。その数82人。もちろんいったんはカナダ当局に拘束され、いっていの労務義務を負わせられるが、コネも利かせたことによって、居留許可を取ってしまう。

 いや、小説は密航だけをテーマにしたというよりも、及川甚三郎の生涯をテーマにしたものであり、彼が型破りの発送と実行力によって、次々と誰もやらない事業を展開していく様を描いたものだ。そうしたなかで、たんに食えないから移民をしたのではなく、うまくいっている事業(東北地方で最初の製糸工場)を譲渡して、及甚はあえて新しいことに挑戦した。いずれ後続企業が出てきて旨味はなくなる、いずれ凶作も来る、そのときになってからジタバタしたのでは遅いのだ、と。

 こんなスケールの大きな人間が、宮城県にもいたのだなぁ。『仙台戊辰戦争』のときにも思ったことだけれども、郷土史なんて何にも知らないものと痛感。

 なお、この小説の時代背景として日本の移民史については、高橋幸春『日系人の歴史を知ろう』(岩波ジュニア新書)が最適。

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