言語・唄・芸能から読み取る日系ブラジル人の「故郷」――細川周平『遠きにありてつくるもの』みすず書房

細川周平、『遠きにありてつくるもの――日系ブラジル人の思い・ことば・芸能』(みすず書房、2008年)

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 短歌や俳句、音楽や踊り、言語(単語の借用から言語学説)、そういった文化実践を網羅するがごとく調査。日系人移民が、文化変容を通して、いかに「故郷」とのアンビバレントな関係をもっていたのかが、多面的に論じられ、全470頁にもなる大著にまとめられた。ディアスポラ文化の研究における画期的な一冊と言える。「ブラジル移民100年」にふさわしい大作だ。

 本書の特徴は、理論には走らず、移民らのさまざまな文化実践の事例を丁寧に読み解いていること、そして早急にその意味を決めてかからず、「思い」「情け」「哀しみ」といった次元に寄り添っていることだ。
 文化とは、タイトルの「遠きにありてつくるもの」にあるように、移民らがその状況下で「つくりだす」ものである。「遠きにありて」は、言うまでもなく、室生犀星の「ふるさとは遠きにありて思うもの」から来ている。望郷というのはたんに想起するだけでなく、文化実践によって表明され、確認され、強化されもする。それが、俳句や川柳や、「コロニア語」(日本語にポルトガル語の借用を混ぜた民族集団語)、日本語教科書、弁論大会、創作浪曲、さらには、カルナバルやオペラ劇場への日系人の参加という「文化接触」にいたるまでが論じられている。
 ディアスポラと文化変容というテーマにとって必読文献だ。


 ディアスポラと社会変容――『ディアスポラと社会変容――アジア系・アフリカ系移住者と多文化共生の課題』(武者小路公秀 監修・浜邦彦・早尾貴紀 編、国際書院、2008年)という本を友人らと出した。
 またこの本を出したアジア太平洋研究センターで、共編者の浜さんをコーディネーターに市民アカデミア「うたに響くディアスポラ――移住者の心をたずねて」が開催中である。講師は、東琢磨さん、アンジェロ・イシさん、本山謙二さん。
 彼らを評者として、細川氏の『遠きにありてつくるもの』の合評会シンポを計画中だ。詳細は後日発表。

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