アイヌに関する二冊の重要書、佐々木昌雄『幻視する〈アイヌ〉』と榎森進『アイヌ民族の歴史』

佐々木昌雄『幻視する〈アイヌ〉』、草風館、2008年
榎森進『アイヌ民族の歴史』、草風館、2008年


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 草風館から近年刊行された、アイヌに関する二冊の重要書。
 まずは、60年代から70年代にかけての短い期間にアイヌとして鋭い詩作と批評を展開し、どこかへ失踪した佐々木昌雄の全発言を集成した『幻視るする〈アイヌ〉』。とりわけ、『亜鉛』と『アヌタリアイヌ』の二つの雑誌に連載された批評文は、アイヌ当事者の発言として、70年代前後の言論のなかではもちろん、現在の観点から見ても、突出して鋭い。
 差別批判は当たり前のこと。また、差別を乗り越える手段としての同化主義への批判もまだ序の口。客観中立を装った大手新聞の責任主体の曖昧化、さらには善意を気取ったアイヌ文化礼讃者のステレオタイプ化、第三世界革命論者の利用主義的アイヌ煽情、などなどの言説は、佐々木によって厳しい批判にさらされています。
 いまでは「オリエンタリズム」とか「ポストコロニアリズム」といったカタカナの理論によって知られるようになった諸問題の核心的な問いが、すでに本書で明確に指摘されている。

 ただその佐々木昌雄は、突然に言論界から姿を消したらしい。そのことの意味はさまざまに解釈は可能だが、推測の域は出ない。草風館の社主が自ら余命幾ばくもないことを知ってから、最後の仕事として「落ち穂拾い」をして出した本書の価値は測り知れない。

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 二段組み670頁を超える大著、榎森進『アイヌ民族の歴史』は、最新かつ詳細、古代から2000年代までカバーし、そして北海道アイヌに限定されない広範囲さを扱っており、本格的通史としては唯一のもの。これまた必読文献と言えます。
 著者が20年ほど前に書いた北海道アイヌの歴史書が、絶版となって久しく、復刊を望む声が続いていたらしい。その同じ著者が、その当時のさまざまな制約を乗り越えて、新たに書き下ろした本書は、また当面のあいだ、アイヌ史のスタンダードとなるだろう。

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 ところで、前述の佐々木昌雄は、(どの年代かは不明だが少なくとも雑誌『亜鉛』刊行当時の1970年~73年頃は)仙台在住だったらしく、また榎森進もまた仙台の東北学院大学の教員。
 仙台に住んでいる私にも、また東北人としてというところもあるが、何か愛着を感じさせる二冊である。

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