日韓・在日の戦後思想をカバーする壮大な見取り図、そして和解論批判ーー尹健次『思想体験の交錯』

尹健次『思想体験の交錯――日本・韓国・在日 1945年以後』、岩波書店、2008年


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 年表・索引まで含めて500頁の大作ではあるが、文体・分析が明快で読みやすく、通読するのは難しくなかった。
 すなわち、日本・韓国・在日朝鮮人にまたがる複雑な戦後思想史に対して、「見取り図」を与えるような書物である。

【もくじ】
第1章 新たな同時代史への出発ーー日本敗戦と朝鮮解放 1945-1946
第2章 思想再建の模索ーー日本と韓国のずれ 1947-1954
第3章 冷戦体制下での相互認識の枠組み 1955-1964
第4章 国交開始と相互理解の困難 1965-1979
第5章 韓国民主化の闘いと相互認識の葛藤 1980-1989
第6章 脱冷戦時代における脱植民地化の課題 1990-現在

 日本と韓国、両方の思想家を猟歩していること、そしてまた、「両国家」という視点では抜け落ちる在日朝鮮人の思想家をしっかりとフォローしていること、ここに尹健次氏にしかなしえない仕事の強みがある。
 韓国内の思想動向に疎い私にとっては、たいへんに勉強になった。しかもそれが、同時代の日本の動向とどのように相互連関しているのかまで示されており、ひじょうに説得的。

 また、和田春樹、丸山真男、竹内好といった、日本の戦後思想家の最良の人びとに対しても、その(比較的)積極的なアジア認識による世間的な高評価にかかわらず、実のところ朝鮮認識において欠落や歪みがあるという指摘には、ハッとさせられるところや賛同できる部分が多かった。
 ただし、それに対比するかたちで藤田省三が「絶賛」のまま終わっていることについては、やや不満が。ここで詳細は述べないが、晩年の藤田が慰安婦問題をめぐって(またそれに関連して在日思想家について)、惨憺たる発言を重ねていたことまでは、尹氏はフォローしていなかったのだろうか。この問題は実はかなり深刻だ。

 最後にこの問題にも関連するが、「むすびにかえて」において、昨今の和解論が厳しく批判されている。
 具体的には、朴裕河の『和解のために』とそれを絶賛している「朝日新聞」的な日本の知識人たちだ。私自身、これまで書評などで批判を重ねてきた。
 今回その小文が、尹氏の大著の「むすび」で引用されているのに気がついて驚いた。

 驚いたというのも、実はごく最近、朴裕河氏本人から、ひじょうに落胆させられるような「反論」を受けたばかりであったからでもある。
 下記表紙写真掲載の『インパクション』171号に、朴氏による「「あいだに立つ」とはどういうことか」と題した文章が掲載された。そこで私の文章が引用され、早尾が朝日的知識人の迎合・コラボを批判しているが、彼女が本を出した当時の状況ではそれはありえない、とかなんとか。

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 私はネット空間では「論争」をするつもりはないので(ここは本を紹介する場)、ここで反批判を企てるつもりはない。願わくばみなさんに、上記の朴氏の論考と、そこで批判されている私の論考と、そして今回紹介した尹氏の大著の「むすび」を読んでいただければと思う。
 そうすれば、朴氏がいかに植民地主義の本質を理解していないか、そしてそれを絶賛してやまない日本の自称リベラル派のお粗末さが、明白になるはずだ。

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