パレスチナ/アラブという現場から、文学の(無)力について――岡真理『アラブ、祈りとしての文学』

岡真理『アラブ、祈りとしての文学』、みすず書房、2008年

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 サラ・ロイ『ホロコーストからガザへ』(青土社)の共編訳者でもある、岡真理さんのアラブ文学論です。とりわけ、パレスチナおよびジェンダーに軸足を強く置いています。各章ごとの主題も明確で、かつ、とても読みやすい文体ですので、一気に読めます。そもそもが書き下ろしの一冊として構想されたうえで連載され、連載後にリライトされているため、論集のような「寄せ集め」感がなく、一冊を通した著者のメッセージがよく伝わってきます。

 根底には、パレスチナへの軍事弾圧という圧倒的な現実の前に、文学研究者としての著者が自らの役割を問い直すことを迫られた、ということがありますが、この背景には、言うまでもなくサルトルの有名な問い掛けがあります。飢えたアフリカの子どもの前で、文学は無力か、と。
 もちろん、まさに飢えて死のうというその子どもにとって、あるいはイスラエル軍に撃ち殺されようとしているまさにそのパレスチナ人にとって、文学など何の役にも立たないことは明白です。その当人を救うことができないのですから。その意味では、「無力」たらざるをえない。
 しかし、小説を読むという行為は、そうした直接性とは異なる次元で、読者に「想像力」を駆動させるという点で、大きな力を持っている、と著者は言います。とりわけ、国民国家の枠組みを逸脱し、それと根源的に対立する思想を提示しうることにこそ、小説の「力」がある。自身の思いを伝ええない「死者」の物語をも、小説は読者に想像させることができるわけです。

 著者は、こうした文学の無力と力について、とくにパレスチナ問題をアラブ・ナショナリズムに(つまりアラブ対ユダヤに)単純化しないかたちで論じるとともに、家父長的で女性に抑圧的と一般に言われるアラブ社会を内在的に批判する視点を見いだすかたちで論じています。そうした意味で、あきらかに本書は、ポストコロニアル文学論の範疇に入ります。
 ぜひご一読を。

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アラブ、祈りとしての文学
みすず書房
岡 真理

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