植民地期~分断独立期の朝鮮近代文学、金起林『朝鮮文学の知性 金起林』(青柳優子編訳)

金起林(著)/青柳優子(編訳・解説)
『朝鮮文学の知性 金起林』(新幹社、2009年)


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 約100年前の1908年に朝鮮生まれ、植民地時代に日本でも7年過ごした作家・詩人・批評家、金起林の初の日本語著作集。画期的訳業です!
 1926~29年(18~21歳)に東京・日本大学、36~39年(28~31歳)に仙台・東北大学で学んだ金起林は、日本滞在前後の京城(ソウル)時代も含めて、李箱とも多くの活動をともにしました。李箱については、以前、崔真碩さんの翻訳による『李箱作品集成』(作品社)を紹介したことがありますが、この二人の文学者としての役割は、モダニズム文学の先駆者であると同時に、それに対しても批判性を備えた批判的コロニアル文学でもありました。

 仙台時代に金起林は、東京で衰弱していた李箱を見舞い、その一ヶ月後に李箱は亡くなりました(37年)。そのこともあって、金は李箱論や追悼文を書いており、本書にも翻訳が収録されています。
 金起林は、その後、太平洋戦争期は作品を発表せず(日本語での発表を避けていたし、体制に迎合することも拒否した)、戦後45年から、南北分断の48年を経て50年に朝鮮民主主義人民共和国側に拉致され行方知れずになるまでの5年間に、戦時中に書き溜めていた作品も含めて、数多くの詩集や随筆や文学論を発表しました。
 このように、きわめて複雑な政治的動乱の時期に、民族主義や民主主義などを陰に陽に主題化した作品が多く、それを読む視点、しかも日本語に翻訳されたものを読む日本の側の視点というのは、ひじょうに繊細な理解が必要になります。

 編訳者である青柳優子さんは、本書に詳細な「金起林研究ノート」を寄せられており、「1、金起林の生涯」と「2、金起林文学を読む」とによって、初の日本語訳に対して、必要不可欠な情報を提供してくださっています。

 とにかく、画期的な訳業です。先に紹介した『李箱作品集成』と、ぜひ合わせて読まれるべき一冊です。

 また個人的には、私も仙台在住ということもあり、いっそう興味をそそられますし、また読むべき縁と責任も感じます。訳者の青柳さんもまた仙台の方で、お会いしたこともあり、できるだけ広く薦めたいと思います。

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朝鮮文学の知性・金起林
新幹社
青柳 優子

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