「政権」交代騒ぎのなかで、また千葉景子法務大臣就任のなかで、『主権のかなたで』(鵜飼哲)を読み返す

鵜飼哲、『主権のかなたで』、岩波書店、2008年

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 世の中は、政権交代、鳩山新内閣発足で、騒がしくなっています。
 ちょっと注目は、千葉景子氏の法務大臣就任。死刑廃止を持論とする方で、アムネスティ議員連盟の事務局長でもあります。バリバリの社会党出身者で、どうしてこんな人事がありえたのか不思議でもありますが、知人に言わせたら、鳩山兄弟のいがみ合いによる副産物ではないか、とのこと。つまり、「ベルトコンベアー」のように、死刑確定囚に死刑執行をしていった自民党の元法務大臣・鳩山邦夫への当てつけなのではないか、と。
 真相はだれもに分かりませんが、鳩山由紀夫首相のなかに、そういう気持ちがチラとあったかもしれませんね。

 とはいえ、とにかく、これによって、死刑廃止のみならず、外国人参政権賛成、二重国籍賛成、夫婦別姓賛成、国旗・国歌法に反対、という貴重なリベラル派議員の法務大臣が誕生したわけですから、いいことです。唯一の目玉人事のような気がします。

 ここで、外国人参政権や、二重国籍や、国旗・国歌、死刑といった問題が並んだところで、この「政権交代」の期に、ぜひとも再読したいのが、鵜飼哲さんの『主権のかなたで』(岩波書店)。
 第一部「歓待の思考」と第二部「抵抗の理路」、そして本のタイトルをなす「主権のかなたで――あとがきに代えて」(事実上一本のエッセイをなす)を合わせて、計20本が収録されています。

 政権交代が、たんに自民党から民主党へという、保守政党どうしの政権委譲でしかないなら、これほどつまらないことはありません。もちろん千葉景子氏が民主党を象徴するわけではないし、また同氏が持論をそのまま政策反映できるわけもないでしょう。過度に期待をするわけではありません。
 ただ、大事なのは、こうした稀有な法務大臣就任をきっかけに、死刑問題や国籍問題や参政権問題に具体的に関わってきた市民が、チャンスを見いだし、具体的なアクションをいくつも起こしていくことだと思います。小さくとも変化を積み重ねることで、枠組みが変わっていくことがあるかもしれません。千葉景子氏の法務大臣就任は、そのための可能性を広げるドアなのではないかと思います。

 そこで、国家主権の論理と、それに対抗する歓待の思考と、そして具体的な現場での抵抗の有り様を模索した、鵜飼さんの『主権のかなたで』がとても大事になってくると思います。
(カバー折り返しより)
国民国家や市民社会の「よそ者」として排除され、不安定な生を強いられる人々。排除の根源にある「主権」の論理に対置すべき「歓待」の原理とは何か。排除に抵抗する実践の理路はどのようなものでありうるのか。デリダ、サイード、シュミットらのテクストに向き合い、世紀転換期の激動を凝視しつつ、来たるべき世界の予兆を探る繊細な思索の記録。
 収録されている論考のほとんどは、1995年から2005年の10年間に、つまり世紀転換期に書かれています。それは、20世紀の終わりと21世紀の始まりというだけでなく、戦後50年であった1995年という転換点と、2001年の〈9・11〉という転換点を含んだ時期の思考と抵抗の軌跡でもあります。

 そして鵜飼さんという人は、ほんとうに膨大な思考の「引き出し」をもってして、適切な時期に適切な言葉を紡いでいっているということが、本書の随所から読み取れます。僕にとってもずっと大切な導きの糸を示してくださってきた方です。文章だけでなく、個人的にも。
 尊敬と感謝を込めて。
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主権のかなたで
岩波書店
鵜飼 哲

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