原爆の日・8月6日に東琢磨『ヒロシマ独立論』(青土社)を読み直す 

東琢磨、『ヒロシマ独立論』、青土社、2007年8月6日

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 今日は広島に原爆が投下された1945年8月6日から64年目の2009年8月6日、「原爆の日」。
 この日に読むのにうってつけの本がこれ、東琢磨さんの『ヒロシマ独立論』。二年前の原爆の日、2007年8月6日の刊行。
 ただ毎年のように死者を追悼し、戦争を反省し、原爆の悲惨さを訴え、核廃絶を呼びかけるだけでなく、もう少し踏み出して考えるためにこの一冊。

 著者の東さんは、広島生まれ育ちだけれども、長らく広島を離れてからのちに、近年広島に戻られた。重たい「故郷」からある意味逃げ出して、そして距離をおいて戻って見つめ直す「異郷」としての「ヒロシマ」。
 この本は、都市論ではあるけれども、しかしたんに一つの都市を多面的に考察しただけのものではない。国家と民族・民衆・個人との関係におかれた広島、軍都・原爆被災地としての過去とその歴史語りをはさんだ現在との関係におかれた広島、東アジアのみならず地球の裏側の南米まで繋がれた世界のなかにおかれた広島。こういった多層的な貌をもつ広島を、著者は、日本国家に「平和都市」として収奪・利用された広島から取り戻すべく、縦横無尽に語っていく。
 煩雑ではあるが、下に目次を節立てまですべて掲げておく。本書の話題の広がりが見てもらえるものと思う。著者の特異分野である、音楽・映画・小説などにも幅広く論及している。

 そして話は、ヒロシマ独立という、著者も認める荒唐無稽な提言に。
 いや、それほど突飛な話ではないかもしれない。沖縄の反復帰運動の歴史的可能性を参照しつつ、また国際非難都市ネットワークの試みを見据えつつ、ヴァチカン市国のような試みができる可能性はゼロではあるまい。またそれを思考すること自体は、無駄な試みではないように思う。
 著者はついには、住人=国民のいない平和公園のみの、つまり死者のみの独立国家、領土がほとんどない(領土がそもそも意味をなさない)象徴的な独立国家を、夢想という非難を承知で提言する。

 これは、「唯一の被爆国」と言って憚らない、あまりに浅薄で傲慢な被害国家意識での広島語りから身を引き剥がし、あらためて国家と人びととの関係を根底から考え直す貴重なきっかけになるに違いない。

【目次】
はじめに 山と海のあいだの 「水の都」

帰郷 甦るヒロシマ
 イラク開戦直後のヒロシマ――関西から広島へ
 家族の壊滅を生きた祖母
 栗原貞子と沖縄芸人ブーテン先生

軍都 呉・広を歩く
 廣島からヒロシマへ
 大本営と被爆
 岩国、辺野古と日米軍事再編
 呉市海事博物館と大和ブーム

廃墟 基町を歩く
 夕凪の街
 原爆の絵と語り部
 原爆スラムと天皇制
 『仁義なき戦い』 『はだしのゲン』
 美空ひばりの反戦歌 「一本の鉛筆」
 神戸震災で歌われた 「満月の夕」 の転戦

復興 広島市民球場周辺を歩く
 カープという希望
 市民球場、市内中心部、「下流芸術」
 「復興」 ショールームか、あるいは・・・・・・
 市民球場難民キャンプ化論

産業 旧市街を宇品港へ歩く
 巨大車道と消えた線路
 企業城下町と 「ファスト風土」 化?
 クルマの窓を巻き下ろせ
 「チェーン店」 の爆弾に抗する 「旧市街」 の詩学
 スーパーで見つけた楽しみ――魚の豊かさ、魚の食べ方

移民 海田を歩く
 朝鮮人部落の痕跡と 『土の記憶』
 強制連行被爆と歌人・深川宗俊
 ラティーノの街へ
 広島で語るサルサ
 最大の移民輩出県

安全 矢野を歩く
 ペルー人の女児殺害現場
 暴走族追放条例――ヒロシマの思想の敗北と危機管理
 ペルー人らのクラブへの強制捜査
 ダンス空間の抑圧
 広島県警本部長から警察庁生活安全局長へ
 日常生活の警察化と戦争の民営化

教育 ふたたび旧市街を歩く
 同和の町の子ども図書館
 平和学習と校内暴力
 「解放の神学」
 吉増剛造との出会い――地図と詩
 李静和と成蹊大学 「政治文化論」 の試み
 「原爆文学」 の危機
 教育――プログラムもカリキュラムもなく

映画 比治山を歩く。そして東京南部へ
 『原爆の傷痕』
 沖縄映画祭からヒロシマ平和映画祭へ
 『島クトゥバで語る戦世』
 『マッシュルーム・クラブ』
 一九五三年 『ひろしま』 から/へ
 東京南部と東宝争議
 塩むすびのように

音楽 海をわたり南へ旅する
 広島の一九七二年――与那国からの訪問者
 広島と沖縄―― 「戦争」 のイメージの向こう側へ
 リベルダーヂ/リマ、「日系人」 との出会い
 ハワイ/広島/沖縄―― 「日本」 への問い
 「南の島」 と 「音楽」 のポリティクス
 普久原朝喜とその時代―― 「録音」 の中の 「故郷」
 八重山―― 「世界」 としての 「辺境」
 複数化する 「沖縄音楽」
 「沖縄」 を訪れる/ことばにする

死者 広島平和公園を歩く
 墓の街
 死者の網膜に映ったもの
 兆候と継ぎ目
 分断された死者と生者のために
 Enclave / En Clave : 都市のなかの島々から
 避難都市
 ヒロシマ独立論

正義と平和のための独立空間ヒロシマ 独立宣言及び憲法私試案


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