東アジアの「コロニアル文学」の画期的翻訳――崔真碩訳『李箱作品集成』

李箱・著、崔真碩・翻訳、『李箱作品集成』、作品社、2006年

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 『残傷の音』に「影の東アジア――沖縄、台湾、そして朝鮮」、そして『異郷の日本語』に「「ことばの呪縛」と闘う――翻訳、芝居、そして文学」という貴重な文章を寄せている崔真碩さんによる労作翻訳業。

 日本の植民地支配下にあった朝鮮・京城に生まれ育ち、晩年に宗主国日本の東京に移り住みそこで夭逝した作家、李箱(イ・サン)の全貌を示す作品集であり、日本における「コロニアル文学」研究に一つの画期をなしています。
 ペンネームである「李箱」は、朝鮮語「異常(イサン)」に由来するとも言われますが、それは作品に意図的に含まれた言語実験にも表れています。その難解きわまる朝鮮語の文章・文体を、日本語に翻訳することは、東アジアの「コロニアル文学」の核心部分に迫る挑戦だと言えます。というのも、植民地人と宗主国とのあいだには、憧憬と抵抗との混淆という特異なアンビヴァレントな感覚が存在するからです。
 しかも、文体におけるぎこちなさの意図的な導入、すなわち「異化」作用を、あえて自然化させない形で日本語に移植することは、苦心を極めたことと思いますし、その一端は、『異郷の日本語』の「「ことばの呪縛」と闘う――翻訳、芝居、そして文学」で語られています。

 同時に東アジアのコロニアル文学として、本書には植民地/宗主国の二重性だけでなく、日本・東京が欧米と東アジアの「あいだ」におかれていた二重性をも反映させています。したがって、本書は日本の「近代」をも問い直す射程があるはずなのです。
 巻末の訳者解説は、独立した長文論考「李箱論」としても秀逸で、教えられるところが大いにあります。上記の紹介文も、多分に訳者解説に負っています。

(少し前に私が某所に書いた紹介文に手を入れて再掲しました。)

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