重要な栗本薫論、石田美紀『密やかな教育――〈やおい・ボーイズラブ〉前史』――栗本薫の訃報に触れて

石田美紀、『密やかな教育――〈やおい・ボーイズラブ〉前史』、洛北出版、2008年

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 作家・評論家の栗本薫/中島梓が亡くなった。
 新聞各紙は、訃報や追悼文を掲載し、一様に、シリーズ100巻を越え未完に終わった『グイン・サーガ』のことばかりに触れている。
 けれども、栗本薫/中島梓については、振り返って再評価すべき事柄がもっと他にあると思う。

 石田美紀の『密やかな教育――〈やおい・ボーイズラブ〉前史』は、いまでは「やおい」や「ボーイズラブ」の名で認知されている「女性がつくり楽しむ男性同士の性愛物語」の生成史を、1970年代に遡って検証した労作だ。
 本書は、大きく二人の開拓者/巨匠を中心的に論じており、マンガ分野での竹宮恵子と、そして小説分野での栗本薫(中島梓)である。
 栗本薫は、そのペンネームからして、戦略的に、ジェンダー区分の固定観念を批判するために使われた。また、あえて「ぼく」という人称を用いたり、あるいは、エンターテインメント分野を意識することで、女性的・私小説的な純文学という枠を解体することが企図されていた。
 その戦略は、竹宮恵子と栗本薫が合流することで発刊された、耽美主義的総合雑誌『JUNE』の場で、さらに大きな発展を遂げた。そこでは、竹宮の挿絵とのコラボによって、翻訳文学を装った栗本による少年愛小説が掲載されたり(つまり原作者も翻訳者も架空)、その架空名で「JUNE文学全集」と題し、古今東西の文学史を男性同性愛の観点から整理提示することで読者の教育が目指されたり、さらには『JUNE』誌上で中島梓名による「小説道場」で、投稿耽美小説の講評をおこなうことで、次世代作家の育生まで手掛けられた。そこのことで実際にデビューした作家も少なくない。

 「戦略としての耽美」の成否についてはいろいろ議論もあるところだと思うけれども、栗本薫/中島梓の死去のニュースに接して、『グイン・サーガ』しか触れられないのは寂しい。この機に、石田『密やかな教育』をぜひ手に取られたい。徹底してジェンダー・バイアス解体の戦略に自覚的であった栗本薫/中島梓、そして教育実践者としても熱心であった中島梓/栗本薫が、その初期(70~80年代)において「再発見」されることと思う。

 本書の内容について、詳細は、洛北出版のサイトへ。

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密やかな教育―“やおい・ボーイズラブ”前史
洛北出版
石田 美紀

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