ナショナリズムの来歴と行方について「公共圏」をキーワードに考える論集

佐藤成基(編)、『ナショナリズムとトランスナショナリズム――変容する公共圏』、法政大学出版局、2009年

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 知人が寄稿した論集なので紹介。知人は、第6章の鶴見太郎さんと第15章の岡野内正さん。
 鶴見さんは、ロシア出自のシオニストたちが、いかにして「ユダヤ人」のネーション概念を発展させていったのかを、国際関係やパレスチナ問題までを視野に入れつつ議論。19世紀末から20世紀前半にかけてのロシア・シオニズム運動の意義について勉強になります。
 岡野内さんは、近年「新しい部族主義」を唱えていますが、本論でも、ナショナリズムを越える契機を「部族ネットワーク」による新しい公共圏の創出に求めています。かなり大胆な議論ではありますが、コスモポリタニズムよりもリアリティあるかも。

 全体は三部構成。理論編の第一部、歴史編の第二部、現在・未来編の第三部。全15章と通読は困難ですが(かく言う私もまだ全部までは読めてませんが)、各論考は完全に独立したものであるため、興味をひくものだけ拾い読みすればいい。ただし、逆に言うと、あまりに各論の独立性が高いため、「トランス」ナショナルという表題への関心も、また「公共圏」というキーワードの定義や使い方についても、各人各様になっています。
 もちろん自分の経験に照らして言っても、こういった論集の編集で「体系性」は望むべくもないことはわかっています。たとえば15章で頭脳が15個もあるわけですから。

第一部 ナショナリズムと理論と概念
 第1章 国家/社会/ネーション
  ――方法論的ナショナリズムを越えて
   佐藤 成基
 第2章 チャールズ・テイラーにおける「言語共同体」の限界
  と可能性 ――多文化主義・ナショナリズム・公共圏
   明戸 隆浩
 第3章 国家と社会の概念系譜学的素描
   左古 輝人
第二部 歴史の中のナショナリズム
 第4章 ポピュラー・プレスとファシズム 
  ――戦間期英国におけるファシスト的公共圏とその限界
   津田 正一郎
 第5章 国民史教育と「100パーセントアメリカニズム」 
  ――戦間期アメリカにおける在郷軍人会と「公共の記憶」
   望戸 愛果
 第6章 ナショナリズムの「想像の公共圏」 
  ――ロシア・シオニズムにおける「国際規範」の創出と応用
   鶴見 太郎
 第7章 近代中国における群衆と公共性 
  ―中華民国初期の首都建設事業と「人民」のナショナリズム
   穐山 新
 第8章 日本人意識の高揚 
  ――土地闘争期沖縄の祖国復帰ナショナリズム
   坂下 雅一
 第9章 「レジスタンスから生まれた共和国」 ――反ファ
  シズムと戦後イタリアのナショナル・アイデンティティ
   秦泉寺 友紀
 第10章 「黄金の扉」は再び開かれたのか?
  ―19世紀末中国系移民への生得の市民権付与をめぐる考察
   大井由紀
 第11章 日本の移民政策とネーションのゆくえ
   佐々木 てる
第三部 トランスナショナリズムの可能性
 第12章 公共圏と国際移民レジーム
  ――トランスナショナルな規範を求めて
   樽本 英樹
 第13章 日本のトランスナショナリズム
  ――移民・外国人の受け入れ問題と公共圏
   柏崎 千佳子
 第14章 愛国心・郷土・公共性
  ――柳田国男の郷土教育批判とその可能性
   武田俊輔
 第15章 〈民族〉を超える〈部族〉
  ――「暴力の文化」を克服する公共圏の創出
   岡野内 正


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