戸籍制度がつくりだす排除と差別――坂本洋子『法に退けられる子どもたち』

坂本洋子、『法に退けられる子どもたち』、岩波ブックレット、2008年

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 以前に紹介した、『離婚後300日問題 無戸籍児を救え!』(毎日新聞社会部編著、明石書店刊行、2008年)で扱われていた範囲よりも、さらに広く、戸籍/国籍制度の問題と、婚外子差別問題まで扱ったもの。
 つまり、戸籍制度そのものが理不尽で差別的であるのだけれども、「離婚後300日問題」では、問題を絞って、300日という線引きだけで、強制的に「前夫の子」となるか、嫌なら出生届を出さないか、という理不尽を超えた荒唐無稽な法律による差別・人権侵害(こんなものでも「法」なのね)を焦点化したことで、かろうじて「通達」による「救済」の施策が獲得できた(法改正には至らなかった)、という顛末になった。

 しかし、それは問題のごくごく一部にすぎない。
 本書の目次を見よう。
 第一章 存在しないことにされる子どもたち
     ――離婚後三〇〇日問題
 第二章 国籍を与えられない子どもたち
     ――無国籍問題
 第三章 正統とされない子どもたち
     ――婚外子相続差別規定問題
 巻末付録 子どもと家族と法をめぐる問題の年表

 つまり、300日規定で出生届が出せないで無戸籍になる、それを離婚後の妊娠だったと医者が証明できれば救済しましょう、などというのでは、矛盾だらけ・人権侵害だらけで非現実的な日本の戸籍制度の問題にはまったく手つかずなのだ。
 結婚の形態が多様化しているし(国際結婚や事実婚など)、結婚などしなくとも子どもは産める。しかし、日本の法律はそういう現実は見ないことにしてきたし、そういう事例がどんどん増えてきて見ざるをえなくなっても、あくまで「正当ではない/例外」として、部分的救済という扱いしかしていない。
 国連機関からは、毎年のように、「世界的にも稀に見る著しい人権侵害」だとして、強い改善勧告が繰り返し出されているというのに、だ。

 本書は、コンパクト、わずか50頁で500円。ワンコインです。ぜひ買って一読、そして知り合いにも勧めてください。この分量で、国際比較のデータも充実しており、いかに日本の差別的常識が、孤絶した独裁国家のように非常識なのかもわかります。

 なお、気になった点を二つ。
 戸籍がつくれないときの不利益について、これは新聞報道でもよく見られるのですが、「戸籍がなければ保険証も発行されず」(19頁)とあるのは、実際そういう違法な対応をした自治体窓口が存在するのでしょうけれど、そういう法律は存在しません。実例としてあったというのはそうかもしれませんが、こういう記述が繰り返されると、戸籍がないと保険証が当然つくられないのだ、という間違った認識が広まるのではないかと危惧します。
 国民健康保険法では、対象者を「住居を有する者」と規定しているだけです。戸籍も住民票も関係ありません。また、戸籍/住民票がなければ国保に入れるな、という行政通達も存在しません。私自身、自分の子どもに国保加入を拒否した仙台市青葉区に対して、「法的根拠を示せ」と役所の上から下まで文書をひっくり返させ、向こうも意地でも拒否しようと数人掛かりで必死に探していましたが、1時間以上待たせられた挙げ句、「戸籍・住民票のないことで国保加入を妨げる法的根拠はありませんでした」という回答。
 もちろん国保入ってます。

 もう一点。「総務省は2008年7月7日、・・・無戸籍の子どもの住民票作成を容認する通知を出しました。これにより、無戸籍の子どもの住民票作成が全国の自治体で行なわれるようになりました。」(24頁)とあるのは、一般化しすぎです。この通達にもかなりの限定がついていて、引っ掛かっているのが300日規定のみだとか、実父との関係認知を求めて提訴しているとか、そういうケースだけで、嫡出/非嫡出の欄への記載拒否者に対しては、懲罰的な住民票拒否が続いています。

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