アメリカ大統領選挙オバマ氏当選を期に人種問題を考える――『マルコムX事典』

ロバート・L・ジェンキンズ編著、『マルコムX事典』、荒このみ訳、雄松堂、2008年

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 アメリカ合衆国の大統領選挙、周知のように、史上初めてのアフリカ系のバラク・オバマ氏が当選した。
 彼はしかし、アフリカ系を代表するのではなく(これはあらゆる候補について言えることだが)、「ホワイトも、ブラックもなく、ヒスパニックもアジア系もなく」、という人種を超越した代表性を強調した。加えて彼は、いわゆる奴隷貿易時代からの「黒人奴隷」の子孫ではなく、ケニアからの留学生であった父と、白人の母親とをもつ。その意味でも、アメリカの一般的なアフリカ系の人びととも出自的に異なる。
 とはいえ、もちろん、これが画期的な出来事であったことは確かだ。
 しかし、だ。なぜに彼は「アフリカ系」とか「黒人」と定義されるのか? これ自体が人種主義ではないのか? 明らかに母親は白人のアメリカ人なのにもかかわらず、見た目に有色人種であれば、白人には分類されないというこのカテゴリー化はなんなのか?
 その意味で、「白人」と「黒人」とは対称的ではない。片親どころか、四祖父母のうちの一人、それどころか、実際にあった「血の一滴の法(ワンドロップ・ルール)」によれば、祖先32人のなかに1人でも「黒人」がいれば、その人は「黒人」とする、という法律まで存在した。公民権運動・公民権法によってアフリカ系の市民に参政権が認められたのは1964年、わずか40数年前のことにすぎない。世界一の大国で、世界一進んでいる(と標榜する)民主国家において、だ。

 公民権運動時代に、この人種問題に真っ正面から立ち向かった二人のヒーローが、マーティン・ルーサー・キング牧師と、マルコムXであったことは知られている。キング牧師は、非暴力抵抗運動を展開し、他方でマルコムXは、「いかなる手段を用いても(By any means necessary)」や「投票か弾丸か」という演説で知られるように、武力革命をも辞さない立場をとった。
 とはいえ、それはマルコムXの活動や思想の一面にすぎない。
 また、アレックス・ヘイリーのインタヴューによる『完訳マルコムX自伝』(中公文庫)も存在するが、『ルーツ』で知られるヘイリーによるバイアスが強すぎるという問題もある。
 さらに、マルコムX登場の背景、活動のさまざまな文脈、直接・間接の影響関係なども考えなければならない。

 そこでこのジェンキンズ編著『マルコムX事典』(雄松堂)の翻訳刊行は、きわめて貴重であるだけでなく、ひじょうにタイムリーであった。訳者と出版社の努力に敬服。

目次
 マルコムX年譜
 第一部 マルコムX研究
     マルコムX、その精神的遺産/妥協の道徳観/ネイショ
     ン・オブ・イスラム/マルコムXと女性の役割/草の根
     へのメッセージ/「投票権か銃弾か」/マルコムX暗殺
     陰謀説、など
 第二部 事典
     人物項目
     事項項目
 索引

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