民族を超えた愛は和平を築けるのか?ーー『ハビービー 私のパレスチナ』

ネオミ・シーハブ・ナイ『ハビービー 私のパレスチナ』、小泉純一訳、北星社、2008年

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 本書は、アメリカ系パレスチナ人女性の著者の体験をもとにした小説だ。著者は実際に、アメリカに移住したパレスチナ人の父親とアメリカ人の母親を両親にもち、14歳頃だった1966~67年にかけて一家でパレスチナ・エルサレム郊外に移住した経験がある。
 この小説の主人公も、舞台背景となる年代は別として、同じ家族構成と年齢の少女だ。
 アメリカ合衆国とアラブ・パレスチナとのあいだの文化ギャップで戸惑う少女の視点と、素朴だったりいたずらっぽかったりする語り口は、ひじょうに面白く読める。また、具体的で詳細なパレスチナの食べ物についての描写や、日常的なアラビア語表現や、あるいはエルサレム旧市街あたりの実在する地名・固有名などは、現地を知る人間にとっては、情景をありありと思い浮かべることができるし、現地を知らない人にとっても、五感に訴える具体的記述は十分に楽しめるものと思う。
 物語の核心部分は、少女がユダヤ人の少年と恋に落ちるところだ。双方の家族が、二人のことを心配し、もっと慎重になるように、思いとどまるようにと警告する。しかし二人は、お互いが心を開き合って信頼できれば、アラブ人もユダヤ人も分け隔てなくつき合えるはずだと、曇りのない純粋さでもって、周囲の不安を払拭する。
 イスラエル兵が少女の友人や親族を暴行したり逮捕するなどの悲劇もあるが、それを背景に、主人公の少女とユダヤ人の恋人のあいだの信頼関係はいっそう際立たせられている。そしてユダヤ人の少年は、西岸地区内にいる父方の一族のいる村を少女一家といっしょに訪問し、受け入れられる。

 著者の体験は第三次中東戦争直前の時期であったが、小説では、年号の明記はないものの、1993年のオスロ合意やその直後の和平機運をうかがわせる背景描写がある。
 アラブ人の少女とユダヤ人の少年のカップルというのも、いかにもオスロ合意直後の雰囲気を反映している。原書刊行は1997年。
 細かな描写は楽しめる良い小説であるとは思うが、しかし、その政治的センスには、あまりのナイーブさを感じてしまう。オスロ合意の問題点については、ここでは繰り返すまでもないだろう。占領の問題など何一つ解決できないどころか、入植政策はいっそう強化され、パレスチナは2000年までのあいだにズタボロにされていったのが、「和平プロセス」であった。その結果が、第二次インティファーダの勃発であったはずだ。
 そう考えると、アラブ人とユダヤ人が信頼しあって愛し合いました、ここに和平のカギがあります、と言わんばかりの設定と結末というのは、正直なところいただけない。

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ハビービー 私のパレスチナ
北星堂書店
ネオミ・シーハブ・ナイ

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