世界の終わりに何をするのかーーアンナ・カヴァン『氷』

アンナ・カヴァン『氷』山田和子訳、バジリコ、2008年

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 気候変動で氷に覆いつくされつつあるという世界の終末。残された世界では、各国が戦争を繰り広げる。
 1967年に書かれて、その著者アンナ・カヴァンは翌年に死去。ちょうど40年前ということになります。冷戦下の核危機などもあり、当時から終末論的なイメージはある程度広まっていたでしょう。
 40年を経過して、温暖化という形でですが、気候変動による世界の終末は、より現実味を帯びてきたと言えます(温暖化ばかりに目を向け、CO2削減をことさらに謳うのは、見当違い、もっと言えば政治イデオロギーのような気はします)。
 SF小説としては、世界の終末という設定そのものはありふれたものかもしれません。
 それよりも気になったのは、その終末が押しとどめられないということが確実なものとなったときに、人は、組織は、国家は、何を考え何を行なうのだろうか、ということ。この小説では、各国が戦争を繰り広げ、人びとは疑心暗鬼になり、そして他方で、主人公も含む男たちが、ある少女に異様な固執を示します。しかも、無力な少女を支配すべく。「世界の終末」との対比において、少女への固執はあまりに不釣り合いに映りますが、しかし、それこそがこの小説の特徴と言えるかもしれません。
 氷に閉ざされゆく世界で、戦火に覆われた世界で、一人の少女を心身ともに服従させることに専念し、しかし身体を自由にできたとしても、心は隷属させられず、そのことに苛立ち翻弄される男たち。この、あまりに無力でありながら、屈服しない少女は何を象徴しているのか、いろいろ考えさせられます。


 ところで余談なのですが、バジリコってどこかで聞いたことがあるけどよく知らない版元だなぁと思ったら、マルジャン・サトラピ『ペルセポリス 1・2』(園田恵子訳)の出版社でした。

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