「餓死した英霊たち」からの想像力ーー奥泉光『浪漫的な行軍の記録』

奥泉光『浪漫的な行軍の記録』講談社、2002年

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 実は奥泉光氏の小説を始めて読みました。
 奥泉氏には、朝日新聞の書評欄で、拙著『ユダヤとイスラエルのあいだ』を取り上げてくださりました(書評の全文はここ)。奥泉氏が拙著を読んでいるのに、評された私が奥泉氏の本を読んだことがないというのも申し訳なく、書評へのお礼も兼ねて、氏の小説を買って読もうと思った次第です。

 南方戦線での、終わることなき陸軍の行軍。末端の部隊では、武器も装備も食糧も決定的に不足し、理念も目的も喪失していた。腐敗した自軍兵士の死体の山を乗り越えて歩きつづけた体験は、おそらく生き残ったであろう者たちの精神をも蝕み、現代の湾岸戦争の自衛隊参戦のなかに、さらには日常生活のなかに、狂気の行軍の継続を幻視する。
 いや、それは幻想ではないのかもしれない。破滅的な行軍は「終わってはいない」のだから。
 錯綜する時空間が、戦争の狂気と日常の正気との境界線を消し去ってゆく。当時の無駄死にの行軍と現代の靖国参拝が直結し、混じり合う。参拝自体が狂気の沙汰であるにもかかわらず、そうとは認識されないこと自体に、境界線の崩壊が現実のものとなっていることを示しているだろう。

 なかなか印象的な小説でした。また他の作品も読もうと思います。

(なお、藤原彰『餓死した英霊たち』青木書店、2001年も参照。)

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浪漫的な行軍の記録
講談社
奥泉 光

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行軍はまだ続いている ...
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