人道支援という名のもとの民族浄化ーーテッサ・モーリス=スズキ『北朝鮮へのエクソダス』

テッサ・モーリス=スズキ『北朝鮮へのエクソダスーー「帰国事業」の影をたどる』田代泰子訳、朝日新聞社、2007年

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 いわゆる在日朝鮮人の北朝鮮への「帰国事業」の真相に迫る本です。帰国事業は、「楽園」への移住と謳われ、日本政府や赤十字などによって政策的に推進された「人道的措置」でした。
 しかし、私の年配の在日朝鮮人の友人で、兄弟が「帰国」した人に聞くと、当時から喜んで率先して「帰国」などしていなかったと言います。日本での生活が、さまざまな(感情的なあるいは制度的な)差別によって、居場所を失い、口惜しい思いをいだきながら、その事業に乗らざるをえなかったそうです。
 その後、日本に残った親族のもとには、仕送りを懇願する手紙が届いたり、あるいは消息が途絶えたり。当時からあれは、ていのいい「棄民政策」ではなかったか、という思いはずっとあったそうです。

 その真相に資料探査とインタヴュー調査によって迫ったのがこの本です。ジュネーヴの国際赤十字のアーカイヴで著者が資料を見つけるところから始まります。
 この事業の背景には、在日朝鮮人を日本社会から排除したいという日本政府の意向が働いていたことは、資料から裏付けられています。つまり、日本という場所から、日本の植民地支配の結果として存在している在日朝鮮人を、その記憶や責任ともども抹消してしまおうということです。これは、「民族浄化」の一形態だと言えるでしょう。「人道」の名のもとの民族浄化です。
(参考までに、ここでも紹介したことのある『イラン・パペ、パレスチナを語る』のなかで、歴史家のパペは、虐殺をしなくとも脅迫でも説得でも、一地域から特定の民族を追放しようとする行為を「民族浄化」と定義できるということを、国連や米国務省などの規定に基づいて指摘しています。)

 それにしても、そうした日本政府の隠された政策意図と責任所在を解明しつつ、しかしそこに北朝鮮、韓国、アメリカ、ソ連、中国といった国々の事情・都合による思惑も作用していたという、広大な力学をも描き出す手法には感心させられるばかりです。
 この歴史の解明は、本当は日本人の責務なのでしょうけれども、しかし、残念ながら、テッサさんだからこそできた仕事なのかもしれないと思います。

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北朝鮮へのエクソダス―「帰国事業」の影をたどる
朝日新聞社
テッサ・モーリス・スズキ

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