二重三重のディアスポラ――在日コリアンの枠に収まらない多言語小説『キムチ』

ウーク・チャング『キムチ』(岩津航訳、青土社、2007年)


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 作者は日本生まれの朝鮮人、いわゆる「在日」として生まれるが、幼くして家族でカナダのケベック州に移住。のちに日本の大学に二年間ほど留学をしている。(元)在日コリアンであるとはいえ、日本語も韓国語も不自由であり、別の二重言語圏であるケベック州に育ったことから、第一にフランス語と第二に英語を操る(この小説もフランス語で書かれている)。この4つの言語の「あいだ」で生きる、特異なコリアン・ディアスポラ。
 この小説の主人公もまた似たような出自と日本滞在経験をもつ、という設定になっている。とはいえ、ストーリーまでが、必ずしも「自伝的」であるわけではない。

 主人公が日本の滞在中にもつ人間関係は、軽妙だったり退廃的であったりといった雰囲気を漂わせ、いかにも現代小説ではある。だが、主人公の出生に関わる両親の来歴に関わる手紙が、偶然の経緯で主人公の手に渡ることによって、「ディアスポラ」がたんなる個人的な越境などではなく、重苦しい政治性と歴史性をまとっていることが告げ知らされる。
 主人公の内向性や退廃性もまた、歴史的な積み重ねから生じていると言えるだろう。

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