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zoom RSS 「世界史認識」と日本の政策まで広く深く問う――臼杵陽『イスラームはなぜ敵とされたのか』(青土社)

<<   作成日時 : 2009/08/10 17:05   >>

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臼杵陽『イスラームはなぜ敵とされたのか――憎悪の系譜学』(青土社、2009年)

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 臼杵陽氏の最新刊。今年は、岩波新書『イスラエル』と、監修された『ディアスポラから世界を読む』(明石書店)につづいて、もう三冊目。ただでさえ忙しいでしょうに、加えて、ガザのことがあれば新聞や雑誌やテレビに引っ張られ、そうしたなかで精力的に重要な仕事を出されています。

 今度の単行本は、近年書き溜めた論文をベースに一冊にまとめられたもの。『見えざるユダヤ人』(平凡社、1998年)以来となる主要論文集(その間、『中東和平への道』や『原理主義』といった書き下ろしの単行本は何冊かありました)。『見えざるユダヤ人』も名著でしたが、本書もたいへんに重要な一冊になっています。

 今度の本のどこがすごいかと言えば、日本も荷担した〈9・11〉以降の「対テロ戦争」の枠組みを根本的に批判するに際して、ヨーロッパの長い近代化の過程で起きた反ユダヤ主義の問題から説き起こし、シオニズムとイスラエル建国の問題、パレスチナ/イスラエル紛争を経由して、欧米のイスラモフォビア(イスラーム憎悪)がいかに生じてきて、いかなる政治的な意味をもつのかを論じている点。
 この射程の広さとアクチュアリティは、まさに近現代世界史の再考を迫るものとも言えます。

 とりわけ感銘を受けるのは、一学者として、イラク戦争などを正当化した中東研究者の問題について、強い危機感をもって、「怒り」をもって筆を執っていること。学者としての倫理を感じさせます。当然、欧米のネオ・オリエンタリストやネオコン・イデオローグたちだけでなく、日本の池内恵なども対象になっています(池内恵は、アラビストを自任しつつ、『諸君!』や『正論』などでイラク戦争賛成、日本の参戦支持を叫んだ/その後ろ盾は山内昌之と立山良司)。

 圧巻は終章。戦時期日本の回教圏研究所が果たした役割と限界を分析しつつ、戦後の「地域研究」がそれを十分克服しえていないことに警鐘を鳴らしています。序章にも問題意識として明記されているように、イラク戦争荷担といった愚行も、戦前の問題を引きずっているというわけです。

 臼杵さんの本はどれも本当に学ばされるところが多いと思います。
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