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zoom RSS 臓器移植法案可決に際して、自己決定/代理決定について考える――立岩真也『弱くある自由へ』、他

<<   作成日時 : 2009/06/20 16:09   >>

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立岩真也、『弱くある自由へ――自己決定・介護・生死の技術』、青土社、2000年

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 再度、一昨日の脳死・臓器移植法案の衆院での可決の機会に書いておきたい。
 脳死を人の死と事実上認定する案が、多数決で大差で可決されてしまった。これで、生前における本人の意思の確認を必要とせずに、医者が家族の同意を取り付けて、脳死状態とみなされた患者の治療を止めて、生きている臓器を取り出すことが可能となってしまう。

 僕は、ドナー・カード(臓器提供意思表示カード)が導入されたときから、こうなるっていくことは既定路線のように思えて、周囲には任意のドナー・カードに対しても違和感を表明してきた。基本的には、脳死・臓器移植を増やしたいがための制度だ。ドナー・カードを持ちましょう、という宣伝攻勢は強まるだろう。それでも普及が思わしくなければ、ドナー・カードを持つことが義務化されて、提供することを選ぶにせよ提供しないことを選ぶにせよ、意思表示をすることを強要されていくだろうと感じていた。
 そんなことを求められるのも不快だったから、僕は任意のドナー・カードの導入時から、嫌な予感がしていた。

 だけれども、今度の事態は、そんな次元を跳び越えて、一気に最悪のところにきてしまった、と思う。振り返って思えば、まだドナー・カード所持の義務づけのほうがマシだった、ということになってしまうだろう。脳死患者が、予め提供の意思表示を残しておかなかった場合には、本人の意思確認を要さずに、医師が家族の同意を得て、それで治療停止・臓器摘出がオッケ−だなんて!

 ここには「自己決定」/「代理決定」の問題が深く関わってくる。これまでも、医療や介護といった現場では、何かと理由をつけては、患者や障がい者や被介護者の自己決定を制限しようとする動きがあった。しかもそれは、「自己決定」を一般論としては尊重するポーズをとりながら、「しかし現実的には」というまことしやかな事情をつけて、明確な意思表示が不可能だったり困難だったりするのをいいことに、自己決定権を一部の人間に対してだけ制限してこようとするのだ! その「現実」とは、その一部の人間の自己決定を制限することで利益を得ようという、利害関係からしか出てこないのは明白だ。医療費や介護費の負担を削ろうとか。
 今度の脳死・臓器移植法案だってそうだ。移植推進という利害から、ドナーを創り出すためだ。しかもこのことで、今後いっそう加速的に、あからさまに偏った「医療」の重点化が進むだろう(「脳死」とされる状態に対する治療方法だって、あるいは、「移植以外に方法はない」とされる病状に対する治療方法だって、まだまだ発展の余地はあるだろうに、そこにはもう予算はつかないことになってくるだろう。まず移植ありき、だ。)。

   *   *   *

 この「自己決定」/「代理決定」の問題について、とくに脳死や臓器移植だけを主題としているわけではないけれども(それ以外の主題もみな大事だ)、さまざまな医療や介護の場面にそくして丁寧に論じているのが、立岩真也氏だ。この機会に、『弱くある自由へ――自己決定・介護・生死の技術』(青土社)は、ぜひ広く読まれてほしい。
 とくに今回のことに関しては、第二章「都合のよい死・屈辱による死――「安楽死」について」、と、第三章「「そんなので決めないでくれ」と言う――死の自己決定、代理決定について」だ。

 また、この本は、その前に出された大著、画期的大著、立岩真也『私的所有論』(勁草書房、1997年)をもとに、さまざまな局面で書かれた論集だ。『私的所有論』は、かなり綿密に原理的・体系的な論述がなされていて、値段も6千円もするし、450頁もある。丁寧に考えるにはこちらにもつきあったほうがいいけれども、てっとりばやくトピックごとに読むには、『弱くある自由へ』のほうか。
 代理母、障害者運動、優生思想などなど、幅広い問題に触れている。
 そして、さまざまに矛盾する立場・考え方に目配りしながら、丁寧に思考をトレースしている。

 集約もできないバラバラな法案を4つも出してきて、多数決で決めるなどという横暴がまかり通ってしまう恐ろしい社会。せめて国会議員らは、この二著ぐらい丁寧に読むぐらいの熟慮をふまえることはできなかっただろうか、と思う。

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