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zoom RSS 一出版人が簡潔に伝えるパレスチナ占領ーーエリック・アザン『占領ノート』

<<   作成日時 : 2008/11/17 10:17   >>

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エリック・アザン、『占領ノート:一ユダヤ人が見たパレスチナの生活』、益岡賢訳、現代企画室、2008年
(制作協力:パレスチナ情報センター=安藤滋夫、ナブルス通信


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 著者エリック・アザンは、ジャーナリストではない。フランスで出版社を経営している人だ。フランス語版でエドワード・サイードやムスタファ・バルグーティーなどによるパレスチナ関係の著書を出版している。
 ユダヤ系フランス人とのことであり、日本語版の副題に「一ユダヤ人が見た」とあるが、しかし、ルポの内容や分析に、とくだん「ユダヤ人」ということが強調して意識されているわけではない。
 それよりも、淡々とした文体、過不足のない背景説明、過剰な形容詞や副詞を用いない人物・風景の描写に、出版人ならではのものを感じさせる。新書判で、著者のルポ170頁(解説や資料を入れて全体が220頁)ほどのコンパクトさで、ひじょうに読みやすい。それが本書の大きな特徴と言えると思う。

 もちろん、著者がパレスチナに滞在したのは一ヶ月。そして、主として、ナブルスとカルキリヤとヘブロンという、ヨルダン川西岸地区の三つの街やその周辺を訪問しただけであり、カバーしている地理的・歴史的範囲は物理的に限られている。
 ただし、それは、「ナブルス通信(パレスチナ・ナビ)」のビー・カミムーラさんが寄せた長文の解説が丁寧に補っている。ひじょうに適切な形で、解説が本文を補っていると思う。

 ともあれ、その著者の限られた滞在と知見にもかかわらず、その洞察が鋭いのは、著者の「まっとうな」生活感覚と政治感覚だ。パレスチナ/イスラエルを見るときに、それを失わないでいることが簡単なようで難しい。あまりに多くの人(「知識人」と名乗る人はなおさら!)が、パレスチナに対しては平気でダブルスタンダードを用いるのだから。
 著者アザンは、分離壁を見ても、これがユダヤ人入植者をパレスチナの村から「分離」することが目的でないことを見て取る。これは徹底して、パレスチナ人の日常生活をズタズタに引き裂き、コミュニティを破壊し、居住を不可能にするためのものである、と。分離へのの両側にあるユダヤ人入植地と、入植者専用道路と、軍事検問所と、、、ありとあらゆる占領手段が、最終的にパレスチナの土地を細切れにし、経済活動を不可能にし、独立国家を無化し、そして「自発的移住」という名目でパレスチナ人を次々と追放している。
 その意味で、アザンは、「占領」という言葉さえ不適切であり、これは「併合」なのだという。

 この断定が極端なものでなく、穏当な事実判断として説得力をもつのは、先に述べたような、著者の淡々とした文体、簡潔な描写によっている。実際に歩いて見て、人びとの話に耳を傾け、その結果、そうとしか言えないというところで、「併合」と言っている。

 もう一点、時局的な特徴としては、著者が訪問・滞在したのが、2006年で、ハマスが圧勝し政権獲得をした直後であったことがあげられる。ファタハとイスラエルのコラボレーションによる「和平プロセス」が破綻し、そしてパレスチナの人びとが民意としてそれにノーを突きつけた直後のことだ。
 それに対し、世界の大国はその民意を踏みにじり、イスラエルといっしょになって、ファタハの再傀儡をつくろうとしていた。そこにパレスチナ占領の本質が、意図せず露呈してしまった瞬間だった。その意味で同書は、貴重な時事性を得ている。

 なお、訳者益岡賢氏による紹介サイトには、日本語版に入れられなかった英語版の「まえがき(ラシッド・ハリーディ)」と「あとがき(ミシェル・ワルシャウスキー)」の一部が訳されている。
 また、本書に収録されている日本語版の地図は、パレスチナ情報センターの専用ページからダウンロードして自由に使えるようになっている。この点も画期的であると思う。

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