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Samih Al-Qasim, Sadder Than Water, Ibis Edition, 2006 先日死去したパレスチナの抵抗詩人、マフムード・ダルウィーシュとともに、イスラエル領となったパレスチナのガリラヤ地方で活動してきた詩人、サミーハ・アル=カーシムのアラビア語・英語の対訳詩集。 このサイトでは原則として日本語の書籍のみの紹介にしようと考えていたのですが、今回だけ例外。というのも、ダルウィーシュだけでなく、その長年の同志であり兄貴分でもあったアル=カーシムの詩集も紹介したいのですが、日本語訳がないのです。その彼の詩のアンソロジーが、アラビア語と英語の対訳のかたちで、二年前に新しく出されたので、こちらを紹介しようと思いました。いつの日か、翻訳を試みる人が出てくることを願っています。 さて、サミーハ・アル=カーシムは、現イスラエル領(のパレスチナ)、ガリラヤ地方の村に住んでいる詩人です。イスラエルが1948年に建国されたときには9歳。それからは、その土地に留まり続けること、そしてパレスチナ人としてのアイデンティティを保持し、その言葉を紡ぐことこそが、日々の闘いでした。詩を朗読したという「罪」で、ダルウィーシュともども何度も投獄されたと言います。 アル=カーシムとダルウィーシュは、ハイファなどを拠点にいっしょに住み、詩作や詩の朗読に励み、政治活動や出版活動などもしました。しかし、度重なる弾圧や投獄に耐えかねて、ダルウィーシュは事実上の亡命を決断。しかし、アル=カーシムはそれでも残ることを決意しました。彼は言いました。「誰もダルウィーシュの苦しい決断を責めることはできない。イスラエル国内で生きる苦しみを思えば」。 二人の関係については、パレスチナ情報センターの「パレスチナの二人の詩人」もご参照ください。 アル=カーシムは、その後もイスラエル国内に生活しています。 しかし、実は、彼の「パレスチナ人」としての困難は、抵抗詩人としてイスラエル国内に生きることだけではありませんでした。彼は、アラブ人のムスリムとしてはマイノリティ中のマイノリティであるドルーズ派なのです。ドルーズ派は、他のムスリム(スンナ派)と異なる宗教解釈をもち、小コミュニティとして独立していたために、イスラエル政府によって分断政策に利用され、兵役を義務化されているのです。イスラエル兵としてパレスチナ人に銃口を向けるという汚れ役を課されたドルーズたちは、「裏切り者」呼ばわりされ、ますますパレスチナ人アイデンティティを分裂・崩壊させていきました。 アル=カーシムは、そうしたなかでも、パレスチナ人の郷愁・哀愁を詩に詠い続け、抵抗詩人の代表的な人物として高く評価されるようになりました。ただし、皮肉なことに、彼はドルーズとしての出自を公言しているにもかかわらず、広くは彼がドルーズであることは忘却されることになりました。パレスチナを代表する詩人がドルーズであるはずがない、という強い思い込みが集団的に作用しているのだと思います。 アル=カーシムの四人の息子たちは、いまみな20〜30歳代。強靭な父の影響を受けてか、全員が兵役を拒否しました。とくに兄二人は、兵役拒否と同時に投獄もされました。「自分はパレスチナ人である。同じパレスチナ人としてパレスチナ人に銃を向けることはできない」、と。 僕は、この息子のうちのひとりとエルサレムの大学で出会い、そして強く惹かれ、2002年〜04年にいっしょに住むことになりました。ワッダーハ・アル=カーシム。彼は毎日のおしゃべりのなかで、パレスチナ/イスラエルについてのさまざまな複雑な側面を教えてくれました。そして、敬愛し、ときには反目する偉大な父サミーハの住むガリラヤの実家にも、帰省ついでに毎月のように連れていってくれました。 そして、父以上にラディカルさを求め、口角泡飛ばし議論する姿を見せてくれました。その体験が僕にとっては、パレスチナ/イスラエル滞在で得られた最大の宝だったと思います。 その後、現地に行くごとに彼のところには行っています。06年のときには、当時出たばかりのこの詩集Sadder Than Waterに、ミーハーにもサインをもらってしまいました。 * * * * ドルーズをめぐる問題は複雑です。上で書いたことだけではうまく伝わらないと思います。 そこで、これまであちこちで書いたりしたドルーズに関する文章のリンクを下に並べておきます。一つでも読んでいただければ幸いです。 ・「こんな国とはオサラバだ!ーーイスラエルの中で、パレスチナ人であることの困難」 ・「ヘブライ大より21:入獄準備(兵役拒否)」 ・「ヘブライ大より25:イスラエル・アラブのアイデンティティ」 ・「スタッフノート:ドルーズの兵役拒否について」 ・「スタッフノート:映画『凧』ーー国境に分断されたドルーズ」 また、知人に翻訳をしてもらい、僕が補注を入れたものがあり、少し長めの文章なのですが、大事なことが書いてありますし、サミーハ・アル=カーシムについても書かれてあるので、紹介します。 ・「ドルーズの良心的兵役拒否者(News from Within)」 |
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